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まさに“大河ドラマ×朝ドラ”のハイブリッド
フィリピンの実写版「ボルテスV」を見てわかったこと

まさに“大河ドラマ×朝ドラ”のハイブリッド<br>フィリピンの実写版「ボルテスV」を見てわかったこと

日本のアニメを100%フィリピン製作で実写化

今年、日本のシリーズ・アニメがフィリピンで実写化され話題を集めています。

元のアニメ版は1977年(昭和52年)放送の「超電磁マシーン ボルテスV」。5人の若者がそれぞれ操縦するメカが合体して誕生するスーパーロボット“ボルテスV”で、地球侵略を企てる宇宙人と戦う物語です。私自身は本放送から数年後の再放送で見ていますが、限りなくリアル視聴世代に等しい思い入れのあるタイトルです。

製作は東映。日本サンライズ(現在のバンダイナムコフィルムワークス)が製作協力で携わり、演出には1979年(昭和54年)に「機動戦士ガンダム」を手掛けた富野由悠季氏(当時は“とみの喜幸”名義)も参加しています。

また、5人でロボットを操縦し悪と戦う設定は、1979年より同じ枠で放送の「バトルフィーバーJ」以降のスーパー戦隊シリーズにも継承されています(5体合体の実写再現は1987年放送の「光戦隊マスクマン」が初)。

なお、アニメ版は、東映公式YouTubeで1~2話が無料配信中。

3話以降は最終話まで「バンダイチャンネル」「Amazon Prime Video」で有料配信中。

「ボルテスV」はフィリピンで1978年に放送され最高視聴率58%を記録し、1999年のリバイバルブームなどを経て、世代を超えて愛される国民的アニメとなりました。この熱狂の背景には当時、独裁政権下にあったフィリピンの世相も大きく影響しています。1991年(平成3年)に日本で放送された「NHKスペシャル」の企画でフィリピンのテレビ局が制作したドキュメンタリーが当時の詳細を克明に伝えていて、とても興味深い内容だったのを覚えています。NHKにはぜひアーカイブ放送・配信をお願いしたいところですね。

そして、本題の実写版は、フィリピンの大手テレビ局“GMAネットワーク”と製作会社“TELESUCCESS PRODUCTION”によって「ボルテスVレガシー(原題:VOLTES V: LEGACY)」というタイトルで製作され、今年5月8日より現地で地上波放送がスタートしました。日本を拠点とした放送・配信予定などは、今のところ詳細未発表のようです。

実写版の監督は、フィリピンでSFアクション映画なども手掛けるマーク・A・レイエス(Mark A Reyes)という方です。ご本人も筋金入りの「ボルテスV」ファンで、本作は「100%フィリピン製」(*1)で作られたと話しています。

予告はハリウッド大作並みのCGクオリティ、主要人物からサブキャラクターまでアニメそっくりの配役とコスチュームなど、作品に注がれた熱量と思い入れが溢れんばかりの映像で、度肝を抜かれます。なんでも2014年から制作をはじめ、完成まで9年を費やしたとか…!

このCGクオリティで本編ではアニメ版の合体シークエンスがほぼ完全再現され、主人公たちによる合体時の「レッツ ボルト・イン!」コールから、さまざまな技の名称を叫ぶ演出も(言語は違えども)アニメ版とほぼ一緒。やはり必殺技は叫んでこそのものですよね!

現地の公式Twitterもその熱さに興奮気味…。

主題歌はフィリピンの人気歌手ジュリー・アン・サン・ホセ(Julie Anne San Jose)が、アニメ版主題歌を日本語で熱唱。フィリピンでも歌が日本語で定着していて、監督は「タガログ語や英語に翻訳してみたが、魔力が失われ、しっくりこなかった」(*1)と説明しています。

「ボルテスVレガシー」を今すぐ見る方法(ただし条件あり)

ここまでの要素・映像でもテンションが上がりまくりの実写版「ボルテスV」ですが、日本で見るには待ち続けるしかないのでしょう? いえいえ、実は “日本語字幕・吹替なし”という条件であれば、日本でもフィリピンの公式放送を視聴できます。

フィリピンのテレビ番組は「iWant TFC」というアプリで視聴でき、実写版も同アプリ内C“GMA Pinoy TV”で毎週月~金夜22:00ごろ(日本時間・配信のラグあり)にライブ視聴、土曜朝7:45~その週の総集編が、放送後もオンデマンド視聴が可能です(900円/月)

iWantTFC“GMA Pinoy TV”内「VOLTES V LEGACY」配信ページはこちらです。

またGMAネットワークはYouTube「Kapuso Stream」で現地の地上波放送に合わせてライブ配信を行い、日本からも視聴できるようですが、個人的にはタイミングを合わせづらいこと、見逃しても繰り返し視聴できないことなどから前者一択でした。

ぜっかくの素晴らしい映像ですが、言葉はほぼ理解できず…やはり「早く日本語で見たい…!」と思うところですが、アニメ版全40話をひと通り見ておくと、大よその内容は理解でき、表現の比較なども楽しめます。それくらいプロットの大筋とビジュアルがmブラッシュアップされてもアニメ版に忠実なんです。

ちなみに、アニメ版は1話24分ほどの全40話ですが、実写版は、1話30分ほどの全80話と、トータルでは倍以上のボリューム!

これは「iWantTFC」での視聴を続けることで理解したのですが、フィリピンのテレビドラマは月曜~金曜の帯放送が主流で、実写版「ボルテスV」もその形態に則りCMを挟んで35~40分ほどで放送されています(CMのボリュームが毎回マチマチ)。オンエアは毎週月曜~金曜20時(現地時間)、土曜は朝から総集編も放送される「朝ドラですか!?」という編成に驚かされます。

現地の公式Twitterは初回の視聴率と放送時間を報じるなどアクティブにPR中です。

この記事を書いている時点で、実写版は第4週・20話まで配信されましたが、毎回、敵を倒すロボットアニメの基本的な展開がまったく踏襲されず、12話でやっと1体目、17話で2体目の敵が倒されました。これ、日本なら番組スポンサーの主力商品であるロボトイを売る上でも「毎回必須」の重要な要素なのですが、フィリピンではそういう“お約束”に縛られない製作環境みたい…?(見逃しているだけかもですが、現地でのロボトイ展開の情報を見かけていません)

「始まりの物語」を、3週間を費やし掘り下げる

それでは、実写版「ボルテスV」はどんな物語が展開されているのでしょう。

1話ではアニメ版の1話でのボルテスVの初陣を踏襲して、敵と接触し「さぁこれから戦いが始まるぞ!」という段階まで描かれました。ところが、2話からは1話の20年前に遡り、ボルテスV誕生に至るエピソードが地球と敵の拠点・ボアザン星を舞台に繰り広げられています。なかには「スター・ウォーズ」や「スター・トレック」を彷彿させる描写も…! なお、全体の1/4を・第20話まで消化した現在、実写版はアニメ版の3・4話のエピソードを描いています。

ですが、毎回のボルテスVの活躍を期待し、そこにカタルシスを求める視聴者はいい加減やきもきされるでしょう。でもこうした追加エピソードにこそ、日本のスタンダードな感覚に捕らわれない、フィリピンの「ボルテスV」への超猛烈な作品愛が込められています。

というのも、アニメや漫画が実写化される際に「原作に捕らわれない」「新しい時代に即した物語を」というリメイクにありがちな(ともすれば改悪と評される)発想でエピソードを上乗せするのではなく、原作(この場合アニメ版)の中に沈められた出来事を丁寧に発掘するように紡がれているのです。

例えるなら、歴史書を熟読し、「この記述と次の記述の間はこういう出来事で繋がるのでは?」「この出来事の背景には記述にはない、こういう背景があったはず」と徹底考証を行った感じでしょうか。

結果、主要なキャラクターを巡る家族のドラマが厚く補完され、時にはアクション以上に重点が置かれます。その物語を補う上で、出番の乏しかったキャラクターも活躍機会や存在感も拡張されています。

このドラマの補完で2話~10話は1話以前に起きていた出来事が掘り起こされました。この間に描かれた出来事には、原作=アニメ版を捻じ曲げない範囲での新たな描写やキャラクターも登場するなど、後々のドラマを盛り上げていく伏線にもなっていると予想されます。

なかでも、10話までボルテスVのパイロット候補として主人公たちと競ったライバル、彼らを見守った面々など、実写版オリジナルキャラクターが、今後、物語に溶け込むようどう立ち回っていくか引き続き注視したいですね。

なお、ドラマが濃厚になる分、ボルテスVが戦う巨大な敵“獣士”(現地呼称は“Beast Fighter”)の登場数16体ほどに抑えられるようです。アニメ版は40体近く登場していましたから、がちょっと残念…と思いきや、1体1体の存在感がアメコミ映画のヴィランのように際立っています。

実写版がアニメ版から“継承”したもの

レイエス監督は現地プレミア会見で「『ボルテスⅤ』は単なるロボットアニメではなく、家族を描いています」(*2)、「(母や父との死別、兄弟の敵対など『家族』を軸にしたドラマは)フィリピン人の心にも通じる」(*1)と話しています。確かに、現地のフッテージでも、まず“ドラマ”の要素を推していました。

自身の思いを監督はフォーマットに縛られない環境で全方位へ注ぎ込んだのは明白です。だからこそリアル視聴世代視点ではビジュアルに違和感はなく、追加エピソードに異物感も感じられません。その上で、「ボルテスV」を月曜~金曜夜8時という注目も重圧も必至な編成で、一人でも多くの人に楽しんでもらえる“大河ドラマ”へ新生させたのでしょう。

まさに“大河ドラマ×朝ドラ”のような濃密さで、フィリピンでの本放送は8月まで続くようです。言葉はわからずとも思いは伝わる、そんな「ボルテスV」の“レガシー”を継承した渾身作の今後の展開を期待せずにはいられません。

ここまで読んで、「ボルテスV」を全く知らなかったけど興味が湧いた方は、GMAネットワーク公式による、約19分のロングフッテージもぜひご覧を。英語ナレーション解説、メイキング映像、さらに東映取締役のコメントも含む濃厚な映像です。

余談ですが、上記フッテージに登場する“TADAO”というキャラクター、元ネタは「ボルテスV」生みの親・長浜忠夫総監督で間違いないでしょう。とことん愛を注ぎましたね監督。

なお「ボルテスVレガシー」は、物語の序盤(1話~予想では20話くらい?)の再編集版がフィリピンの映画館で先行上映されています。物語の進行具合がアニメ版に近いようで、まずはこちらからでも日本上陸を果たしてもらえると、国内では受け入れられやすい気もします。もちろん全話を日本語で改めて見たい気持ちは変わりませんよ。

いつかは日本凱旋、信じてる 信じてる その日のことを。

*1(引用元)「ボルテスⅤ」がフィリピンで実写版として復活 「100%フィリピン製」も主題歌は日本語

*2 (引用元) TVシリーズ・アニメ「超電磁マシーン ボルテスV(ファイブ)」実写リメイク版 「VOLTES V LEGACY(原題)」

*3記事内の情報は2023年6月2日時点のものです。

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